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盛岡家庭裁判所 昭和39年(家)678号 審判

申立人 山本正男(仮名)

右法定代理人親権者母 山本茂子(仮名)

相手方 佐野良男(仮名)

主文

相手方は申立人に対し、扶養料として、昭和三九年三月二七日から申立人が一八歳に達するまで、毎月末日限り一ヵ月金三、〇〇〇円の割合による金員を申立人方に持参又は送付して支払え。

手続費用は、相手方の負担とする。

理由

申立代理人は「相手方は申立人に対し、扶養料として本申立の日から申立人が(イ)小学校卒業まで一ヵ月金五、〇〇〇円、(ロ)中学校卒業まで一ヶ月七、〇〇〇円、(ハ)満二〇歳に達するまで一ヵ月金八、〇〇〇円の割合による金員を支払え」との審判を求め、その事由として次のとおり述べた。

相手方が、昭和三二年六月一六日頃、申立人の母山本茂子を強いて関係した結果、茂子は懐胎し、昭和三三年三月二二日申立人を分娩した。

しかるに相手方は申立人が自己の子であることを認めなかつたので、申立人は相手方を被告として盛岡地方裁判所に認知の訴を提起して勝訴したところ、相手方は控訴したが控訴棄却となり、昭和三八年三月一六日、申立人が相手方の子であることを認知する旨の判決が確定した。

上記のとおり相手方は申立人の父として、申立人を扶養すべき義務があるのに今日までその責任を果さないので申立人は親権者である母茂子の監護教育を受けている。しかし、茂子は視力が極めて弱い身体障害者で僅かに家事の手伝位ができるだけで収入も又特別の資産もないので祖父一郎の援助により母子が生活している。他方相手方は北海道方面に出稼ぎに行つたり、製炭農業により尠くとも一ヵ月三〇、〇〇〇ないし四〇、〇〇〇円の収入があつて妻と二人の子供を扶養してもなお充分の余力がある。申立人は現在小学校に入学し、生活費の外教育費等多くの金銭を必要とし、これは将来なお増大することは明らかなので申立の趣旨記載の扶養料を支払うべき旨の審判を求める。

本件記録に編綴の各戸籍謄本、各判決正本ならびに当裁判所調査官の調査報告書および山本一郎および相手方の各審問ならびに○○建設株式会社作成の照会回答書の結果によると、相手方は昭和三二年六月一六日頃の夜、茂子方で同人を姦淫した結果茂子は昭和三三年三月二二日申立人を分娩したこと。しかし、相手方は申立人を認知しなかつたので申立人は盛岡地方裁判所に認知の訴を提起し、勝訴の判決があり、相手方は控訴したが控訴棄却となつて、昭和三八年三月一六日、申立人が相手方の子である旨の認知の裁判が確定したので茂子が同年四月二七日届出たこと。申立人は出生後母茂子の膝下で監護養育されていたのであるが茂子は先天性黒内症のため両眼とも殆ど視ることができない二級の身体障害者で自からの身廻等は不自由ながらもできるとしてもそれ以上の行動は意に委かせない状態であり、この為定職に就いたり或いは稼働して収入を得ることもできず、月額一、八〇〇円の身体障害者福祉年金の支給が唯一の収入で他に財産も全くないこと。従つて申立人は母茂子ともども祖父山本一郎方に居住して同人の、全而的な援助と扶養で今日まで生活しているが、一郎は一六町五反歩余の山林を有する外は一町五反歩の畑を耕作して大豆麦、稗、蔬菜等年間一五〇、〇〇〇円程度の収入があるのみで山林の一部は認知の訴訟費用の為一部抵当に入り又他に約三〇〇、〇〇〇円の借財を負い、収入の中約五〇、〇〇〇円は借財の支払に又二〇、〇〇〇円は身体障害者の息子への送金に向けなければならず、申立人と茂子を含む家族の毎日の生活を維持するに精一杯でそれ以上の余猶はないこと。他方相手方は、実父方で妻と二人の子供と生活していて、自己名義の不動産は所有していないが、しかし、相手方の実父は、田八反歩、畑一町六反歩を耕作してタバコ、ホップ、蔬菜等による現金、年収約二〇万円位と田より収穫した米の一部を供出した代金で自分と、相手方家族の共同生活を維持しているが、申立人方の生活状況よりは良いこと。又相手方は昭和三九年頃から北海道方面に土工として出稼ぎ、一部を家族に送金していて、昭和四〇年五月九日からは北海道○○市所在の○○建設株式会社の雑役夫として働き、同年一二月五日迄に三二四、六五〇円の収入を得又それ以降の冬期間は一日七〇〇円の割合で一ヵ月二〇日間月一四、〇〇〇円の失業保険金の支給を受けていることがそれぞれ認められる。

次ぎに申立人程度の満八歳の男子の最低生活費の額について考えてみるに、当裁判所調査官作成の二戸福祉事務所における調査結果によると申立人と同年齢者の生活保護法に基く生活扶助支給額は、(イ)一般生活費として二、一六五円、(ロ)教育費一七〇円、(ハ)その他三〇〇円合計二、六三五円であり又申立人の義務教育終了時における同上支給額は(イ)一般生活費三、四七〇円、(ロ)教育費三六五円、(ハ)その他三〇〇円合計四、一三五円となる。しかし、これらはいずれも、光熱費、住居費、被服費等を含まないものであり、更に岩手県労政課作成の岩手県の町村(市を除く)別の標準世帯の月間支給額は三六、九一八円であり、又労働科学研究所の「最低生活費の研究一九五六」による町村における標準世帯の一ヵ月の実支出が三七、五〇七円であることより考え合わせても前記二戸福祉事務所の生活扶助支給額は低きに過ぎるものというべきであつて申立人と同年齢者の最低の生活費は少くとも四、〇〇〇円を下らないものと考えるのが相当である。

以上の事実によれば申立人の母茂子は申立人と同居し、直接その監護養育に当つているが無職で月額一、八〇〇円の身体障害者福祉年金の支給を受ける以外は無収入で自己の生活を維持することも難かしく申立人の生活費、教育費等の必要費をまかない扶養する資力を欠くものというべきで、申立人は扶養を要する状態にある。

他方相手方は前認定の雑役夫としての賃金ならびに失業保険金を得ているのであるから申立人を扶養する義務を負い、これを金銭の支払でするのを相当とするところ、相手方の申立人に対する義務は父親として、自己の妻子と同程度の生活を維持さすべきいわゆる生活保持の義務であり、その他諸般の事情を考慮して相手方は申立人に対し、一ヵ月金三、〇〇〇円の割合による金員を扶養料として、本申立のあつた昭和三九年三月二七日から申立人が一応未成熟子たる状態を脱するとみられる満一八歳に達するまで毎月末日限り申立人方に持参又は送付して支払うのを相当とする。

よつて、申立人の本件申立は主文第一項の限度において相当でその余は失当であり、手続費用は相手方に負担させることとし、主文のとおり審判する。

(家事審判官 岡田潤)

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